本連載も10回目を迎えた。区切りの回としての今回は温泉の“効能”、そして“温泉旅行の効能”について考えてみたいと思う。
昨今、源泉掛流し温泉がこれほどまでにもてはやされて来た背景には、いうまでもなく「健康志向」がそのベースにある。温泉には泉質によってさまざまな効能があり、温泉に入ることによって「健康になれる」という思いがあるからだ。その効能を最大限発揮できるのが「源泉掛流し」という考えが根底にあって、掛流し温泉の人気が大いに高まって来たのだとも言えるだろう。このこと自体については僕も異論はない。ただし、その源泉掛流し温泉が「清潔であること」が絶対条件である。不潔な掛流し温泉に入浴するのは、健康になるどころか、健康を害する危険すらあるのである。

ご存じの通り、温泉には泉質によってさまざまな効能がある。具体的なものをいくつか挙げてみると、例えば硫黄泉には硫化水素ガスが含まれており、血管拡張作用があるので、動脈硬化症などに効能が高い。また重曹泉は皮膚の角質を乳化する作用があるので美肌作用がある。さらに飲泉すると胃酸を中和し、尿酸の排泄をうながすので、慢性消化器病や痛風、糖尿病に効能がある、といった具合である。これらの効能は現代でこそすべて科学的に証明されているが、医学の発達していなかった大昔からこうした温泉の不思議な力は人々に認識されていたわけで、当時の人々にとって温泉は、まさしく神がかり的な湯(水)だと考えられていた。現在でも各地の温泉場に温泉神社や湯薬師が祀られていることも、そうした考えの名残りであると思う。日本人は特に山や木など、自然を信仰の対象として見る文化がある。温泉もまた、そうした大自然=神の恵みとして日本人の心をとらえたことは、しごくもっともだと思う。なにしろ確かな“効能”があるのだから。

こうした温泉自体の効能のほかにも、現代では「温泉旅行」に行くことが健康増進につながるということがわかっている。山の温泉であれば森林浴もあわせて楽しめ、フィトンチッドによる効果も期待できるし、例えば川沿いの温泉であれば、近ごろではおなじみになったマイナスイオンのもたらす効果もある。あわせて、海でも山でも、旅行に行く=自然環境が変わるということによる「転地効果」というものも実証されていて、ストレス発散に非常に効果的だといわれている。極端な話、温泉自体の効能というものは、1日温泉に浸かっただけで目に見えて効果が表れるということは少ないと思う。むしろ、こうした「温泉旅行」に出かけて気分転換をし、ストレスを解消して、心が健康になるという効果の方こそ、現代人にとっては速効性があるように思われてならない。回りくどくなってしまったが、つまり、その温泉を取り巻く自然環境や、温泉でくつろぐという精神的なリラックス効果も含めて、「温泉旅行」を楽しみたいものだと僕は言いたいのだ。そのためには、いたずらに温泉そのものが「源泉掛流しか否か」ばかりにこだわり過ぎない方がいいのだと、僕は思うのである。
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